はじめに

「うちは無床クリニックだから関係ない」「前から届出しているから今年もそのままでいい」── もしそう思っているなら、一度立ち止まってください。2026年度の改定で大きく拡充された「ベースアップ評価料」は、対応の仕方ひとつで年間100万円規模の差が生まれる制度です。しかも、これまで算定していたクリニックも“再届出が必須”になりました。本記事では、院長先生が知らないと損をするポイントを実務目線で整理します。

そもそもベースアップ評価料とは?

物価が上がるなかで、スタッフの給料を上げたくても原資が足りない。そんなクリニックを支えるために作られたのが「ベースアップ評価料」です。仕組みはシンプルで、医師以外のスタッフ(看護師・コメディカル・事務職員など)の給料を毎月固定で引き上げると、その分を診療報酬として収入に上乗せできるというものです。

ここで重要な注意点が2つあります。1つは、毎年の定期昇給は対象外で、それとは別に「ベースアップ」として毎月固定で引き上げる必要があること。一時的なボーナスや一回限りの手当では認められません。もう1つは、この評価料で得た収入は全額スタッフの賃上げに充てる決まりで、クリニックの利益にはできないという点です。

2026年改定での主な変化:対象が広がり、点数も上がった

今回の改定で、ベースアップ評価料は次のように使いやすくなりました。

  • 対象職種の拡大:これまで対象外だった事務職員や40歳未満の若手勤務医も、賃上げの対象に含められるようになりました。
  • 点数アップと段階的な引き上げ:2026年6月から点数が上がり、2027年6月にはさらに拡大予定とされています。2年がかりの賃上げ支援策として全体像を押さえておく必要があります。
  • 手続きの簡素化:以前より届出の負担が軽くなり、見送る前に一度検討する価値があります。

具体的なインパクトを見てみましょう。1日60人(初診20人・再診40人)が来院し、月20日診療するクリニックの場合、改定前は月およそ4万円程度でしたが、改定後は月10万円前後になり、年間ではおよそ120万円の差が出る試算もあります。来院数が多いほど差は広がります。

損するポイント①:継続算定していても「再届出」しないと加算がストップ

最大の落とし穴がこれです。今回の制度移行では、これまで継続してベースアップ評価料を算定していたクリニックでも、改めて施設基準の届出を出し直す必要があります。「ずっと算定しているから自動的に続く」わけではありません。

しかも届出の締め切りが前倒しされました。昨年までは6月中の提出でしたが、今年は5月中の提出に変更され、6月1日からの算定には“必着”での提出が求められました。「消印有効」ではなく、厚生局に届いている必要がある点も要注意です。期限を過ぎると、その分の加算がそのまま受け取れなくなります。

損するポイント②:毎年8月の「実績報告」を忘れると後で揉める

ベースアップ評価料は「届出して終わり」ではありません。毎年8月に、前年度分の賃金改善の実績報告と、今年度分の中間報告を提出する義務があります。

ここでよくあるトラブルが、計画書と実績の数字が合わないケースです。たとえば対象職員の数え方(パートさんを常勤換算で何人とみなすか)が院内でバラバラだったり、賃上げを基本給で行ったのか手当で行ったのかの説明ができなかったり。後から矛盾が露呈すると、報告作業が一気に重くなります。給与台帳・賃金規程・議事録などのエビデンスを、最初から残しておくことが何よりの防御策です。

得になるポイント③:補助金と重なる可能性がある

見逃せないのが、ベースアップ評価料が補助金の前提条件になる場合があることです。過去の賃上げ支援事業では、評価料を届け出ていることが補助の対象になる条件とされた例があります。つまり、届出を出していないだけで、診療報酬の増収だけでなく補助金まで取りこぼす可能性があるのです。賃上げ関連の補助金は内容が変わりやすいため、最新情報を都度チェックしておきましょう。

将来困らないために:算定しない場合も「整理」は必要

無床クリニックには、賃上げをしない場合の減算ペナルティはありません。そのため「あえて算定しない」という選択もあり得ます。ただし、算定しない場合でも、スタッフの採用・定着や処遇改善、将来の制度見直しへの備えをどう考えるかは整理しておく必要があります。人手不足が深刻化するなか、近隣のクリニックが賃上げを進めれば、賃金水準の差がそのまま人材の流出につながりかねません。「算定する・しない」のどちらを選ぶにせよ、院長として説明できる形にしておくことが大切です。


ジムコンの視点
ベースアップ評価料は「届出・賃金改善・報告」がワンセットで、どれか一つ抜けると損やトラブルにつながります。診療で多忙な院長先生に代わり、非常勤事務長が締め切り管理と書類整合をサポートします。制度を“続けられる仕組み”にすることが、私たちの役割です。

株式会社PyXis 中小企業診断士 黒谷大介

株式会社PyXis 代表取締役
中小企業診断士

黒谷 大介

PyXisのコンサル事務長「ジムコン」は
コンサルティング型の非常勤事務長サービスです

非常勤事務長サービスであるコンサル事務長「事務コン」は、クリニックの先生方が本来の業務である「診療に集中する環境を作る」ことをミッションにしています。

医院経営に必要な作業を「主体的に代行」し、まだ見えていない課題を顕在化させるとともに、解決方法を提案し実行することで、クリニックの運営が円滑に動くよう、一緒に汗をかき、伴走いたします。

先生だけでなく、クリニックで働く皆様の満足度を上げることで、患者様へのサービス向上につながると考えております。

「コンサル事務長」を通じて、社会貢献できる企業を目指しております。

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