はじめに
2026年10月には、「106万円の壁」撤廃がありました。
今回はもう一つの壁、「130万円の壁」の話です。実はこちらは2026年4月から、すでに判定のしくみが変わっています。
しかもこの新ルールは、院長先生が労働条件通知書の書き方を工夫するだけで、パート職員に安心して残業を頼めるようになる、という実務メリットにつながります。見落とすと損をする、そして知っておくと得をするテーマです。
そもそも「130万円の壁」とは
パート職員が、配偶者や親の健康保険の扶養に入ったまま働けるかどうかの基準が「年収130万円未満」です。
(60歳以上や一定の障害がある方は180万円、19歳以上23歳未満は150万円)。これを超えると扶養から外れ、自分で社会保険料を払うことになります。
この壁があるために、「年末の繁忙期に残業を断る」「シフトを減らす」といった働き控えが慢性的な人手不足に拍車をかけていました。
クリニックの現場でも、繁忙期に限って人手が足りない、という悩みはよくあるはずです。
【何が変わったのか】判定が「実績」から「労働契約」ベースへ
これまで扶養に入れるかどうかは、過去の収入実績や今後の見込みを総合的に見て判断されていました。
この方法だと、残業代も収入に含まれるため、思いがけず残業が増えると130万円を超えて扶養を外れてしまう恐れがありました。
2026年4月からは、労働条件通知書などに書かれた内容(時給・所定労働時間・所定労働日数・通勤手当の額など)から見込み年収を計算する方法に変わりました。
ここがポイントです。
労働契約の段階では見込みにくい残業代などは「臨時収入」として扱われ、年間収入に含めないことになりました。
つまり、契約上の見込みが130万円未満に収まっていれば、繁忙期に残業して実際の収入が一時的に130万円を超えても、原則として扶養にとどまれるのです。院長先生にとっては、「残業をお願いしたいのに扶養の関係で断られる」という状況が起きにくくなるということです。
【メリットのためには】労働条件通知書の記載が命綱
このメリットを受けるには、労働条件通知書の書き方が決定的に重要です。曖昧な書き方をしていると新ルールが適用されず、従来どおりの判定に戻ってしまいます。押さえるべきは次の点です。
時給・所定労働時間・所定労働日数を具体的に明記すること。
「シフト制による」とだけ書いて労働時間や日数が特定できないと、見込み年収を計算できず新ルールが使えません。
通勤手当は年間収入に含まれるため、支給する場合は金額をはっきり書くこと。
「当社規定により支給」といった書き方では金額が不明確でアウトです。
所得税では非課税の通勤手当も、この判定では全額算入される点に注意が必要です。
そして、臨時収入として扱いたい残業代や賞与の書き方です。時間外労働は「有・月○時間程度」など具体的な時間数を書くと、その分が年間収入に算入されてしまいます。
逆に時間数を書かず「有」とだけ記載すれば、臨時収入として年間収入には含まれません。
賞与も「業績により支給」など金額を書かなければ臨時収入扱いとなり、「年1回○万円」と金額を書くと算入されます。
残業や賞与を扶養判定から外したいなら、あえて金額・時間を確定させない書き方が有効というわけです。
見落とすと困る注意点
まず、これは社会保険の扶養(130万円)の話であり、所得税の配偶者控除(103万円など)とは別制度です。混同しないようにしましょう。
また、契約と実態が大きくかけ離れている場合や、恒常的に130万円を大きく上回る場合は、扶養から外れる可能性があります。
あくまで「契約は妥当な範囲で、たまたま残業が増えた」というケースを救う制度だと理解してください。
すでに扶養に入っている職員は、秋から冬にかけての扶養資格の再確認の際に新ルールが適用される見通しです。
労働条件通知書は、書き方ひとつで職員の働きやすさと院長の人手確保を左右する大切な書類です。記載の見直しや職員への説明は、後回しになりがちですが効果は大きい実務です。
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