2026年義務化「カスタマーハラスメント対策」

「患者さんだから仕方ない」が通用しなくなります

受付で怒鳴られた。待ち時間が長いと机を叩かれた。会計時に「訴えるぞ」と言われた。ネットに実名で悪口を書かれた。

医療の現場では長いあいだ、「患者さん相手だから、ある程度は我慢するもの」とされてきました。その前提が、2026年10月1日から法律で変わります。

労働施策総合推進法が改正され、カスタマーハラスメント対策が事業主の義務になりました。

しかも厚労省の指針では、「顧客等」の定義のなかに病院・福祉施設等の「施設の利用者及びその家族」がはっきり含まれています。患者さんやそのご家族からの言動は、法律上のカスハラ対策の対象だということです。

これまでは努力義務でした。やらなくても直ちに問題にはならなかった。10月からは義務です。対応していなければ、法令違反の状態になります。
カスハラかどうかは「理由」ではなく「やり方」で決まります。院長先生がまず押さえるべきは、この判断基準です。

たとえ待ち時間が長引いたという正当な背景があったとしても、大声・暴言・居座りといった手段が不相当であれば、ハラスメントに該当します。

これは現場にとって大きな意味を持ちます。「でも、待たせたこっちも悪いから……」とスタッフが飲み込んでしまう場面。あれは法律上、もう飲み込まなくていいのです。

言い分が正しいことと、やり方が許されることは別問題。

この線引きを院長先生が示すだけで、現場の空気は変わります。

対象は対面だけではありません。電話やSNS等のインターネット上で行われるものも含まれるとされています。

Googleの口コミへの中傷的な書き込みや、深夜の執拗な電話も射程に入ります。
逆に「これはカスハラではない」も知っておく、ここを誤ると、別の法律違反になります。

障害のある方から、差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去が必要である旨の意思を表明すること自体は、カスハラには当たりません。

そのうえで、負担が過重でないときは、必要かつ合理的な配慮をしなければならないとされています。
噛み砕くと、「車椅子なので入口の段差を何とかしてほしい」「筆談で対応してほしい」といった申し出は、正当な権利の行使であってカスハラではない、ということです。

強い口調だったからといってカスハラ扱いすると、今度は障害者差別解消法の側で問題になります。
わがままな要求と、合理的配慮の求めについては、スタッフがこの二つを区別できるようにしておくことが重要になります。そのため、研修で必ず触れるべきところです。

何をすればいいのか

義務とされる措置は、大きく4つの柱・10項目に整理されています。

すべて「しなければならない」ものですが、マニュアルや相談窓口の整備は、自院の規模や体制に応じた方法で構いません。
大病院と同じものを作る必要はないということです。

① 方針の明確化と周知

一つめは、方針の明確化と周知。「カスハラには毅然と対応し、職員を守る」という方針を明確にし、知らせます。実務では院長名での基本方針の策定、院内掲示やホームページへの掲載が該当します。A4一枚の掲示から始められます。

② 対処の内容を決めて周知

二つめは、あらかじめ対処の内容を決めて周知すること。厚労省の資料では、管理監督者にその場の対応方針について指示を仰ぐこと、可能な限り労働者1人で対応させないこと、犯罪に該当しうる言動は警察へ通報することなどが具体策として挙げられています。「1人で抱えさせない」を院内ルールにするだけで、実効性は大きく変わります。

③ 相談体制の整備

三つめは、相談体制の整備。窓口をあらかじめ定めて周知します。既存のパワハラ・セクハラ相談窓口と一体で設置することも可能なので、新設が難しければ兼用で構いません。大事なのは、窓口があることを全職員が知っていること。そして、ハラスメントかどうか微妙な段階でも広く相談に対応することが指針で明記されています。

④ 事後対応と抑止措置

四つめは、事後対応と抑止措置。事実確認、被害者への配慮、再発防止という流れを整備します。職員が強いショックを受けた場合は現場から離脱させる、といった配慮も含まれます。加えて、特に悪質なケースへの対処方針をあらかじめ定め、周知し、実行できる体制を作ります。相談者のプライバシー保護も、併せて講ずべき措置に入っています。

見逃すと損する、守れば得するポイント

放置した場合のリスクは、行政からの助言・指導にとどまらず、勧告や企業名の公表に至る可能性があります。地域密着のクリニックにとって、名前が出ることの打撃は説明するまでもありません。一方で、きちんとやれば採用で効きます。

看護師も医療事務も売り手市場です。「うちはスタッフを守る方針を明文化しています」と求人票や面接で言えるクリニックは、それだけで選ばれます。

カスハラ対策はコストではなく、採用広告だと捉えたほうが実態に近いはずです。

今週やること

A4用紙に一枚、院長名で「当院はスタッフを守ります」という方針文を作り「1人で対応させない」を朝礼で口頭ルール化しましょう。

既存の相談先を明示して、全員に伝える。院長でも事務長でも構いません。
10月まで残り約3か月。就業規則の改定や研修は後からでも間に合いますが、方針の明示だけは今日からできます。

株式会社PyXis 中小企業診断士 黒谷大介

株式会社PyXis 代表取締役
中小企業診断士

黒谷 大介

PyXisのコンサル事務長「ジムコン」は
コンサルティング型の非常勤事務長サービスです

非常勤事務長サービスであるコンサル事務長「事務コン」は、クリニックの先生方が本来の業務である「診療に集中する環境を作る」ことをミッションにしています。

医院経営に必要な作業を「主体的に代行」し、まだ見えていない課題を顕在化させるとともに、解決方法を提案し実行することで、クリニックの運営が円滑に動くよう、一緒に汗をかき、伴走いたします。

先生だけでなく、クリニックで働く皆様の満足度を上げることで、患者様へのサービス向上につながると考えております。

「コンサル事務長」を通じて、社会貢献できる企業を目指しております。

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